月も出ていない、闇に黒を重ねたような夜だった
起きた時のけだるさが不快と、クーラーをつけずに寝苦しく過ごす
気配が蠢き、覚醒する
うちの子が起きて、甘えるために近づいてきたのだと、なでるために手を回した
「やあ」
声が聞こえた気がした
「ちょっと話さないかい」
やばい誰か助けてと、脳が警報音をごきげんに鳴らしているが、恐怖が上回って、発したはずの言葉は口から出口を見つけられず喘いでいる
「きみを助けたいんだ」
暗闇で目を凝らす
あきらかにうちの子であるそれは、確かにそう言っているように聞こえる
ふーちゃん?と、なんとか振り絞って出した声に力は無かった
「イエア、状況が飲み込めたようでなにより」
「きみは今こう考えている。なぜ私が未来からくるという危険をおかしてまでここにいるのかと、ああ大丈夫だよ。こちらの世界線の我々はしばらく起きない。タイムパラドックスに対する規定は厳しいんだ」
違う、急に設定を説明しだしたけど、知りたいのはそこじゃない
というか未来から来た猫というディテールは、どう考えてもアレでしかない
「ふむ。ポケットをまさぐる二頭身ロボットと一緒にしないで頂きたい。彼のやっていることは秘密道具を使って彼を甘やかしているだけで、その結果、自己解決能力が欠如した子にしてしまっているのではないかな。嘆かわしいことだよ」
心の中を読まれている。怖い
「本題に移ろう。さっきも言ったけど、根本的解決をするためにやってきた。分かってる、結論から話なそう、プロテインを摂るんだ」
どうしよう、完全に迷子である。
「そもそも人間の体は水分を抜かす70%がタンパク質でできている。私たちの体そのものだ」
あなたは猫ですけどね
「そのためタンパク質が足りなくなると、肌荒れ、体温が下がる、疲れやすくなる、アトピーから鬱まで、あらゆる病気の基になってくる」
ごくりと唾を飲み込んだ
「ラーメン、ごはん、パスタ、ハンバーガー、ポテチと糖質祭りの食事体系になっているのは、側で見てきてたから知っている」
ぎくぅっ
「タンパク質はエンジンだ、ガソリンとなるのが糖質や脂質になる。ただ糖質というのは非常に燃費が悪い。そのため摂取量が多くなる。なのでタンパク質をとりながら、糖質を減らして、脂質をとるようにしていく必要がある」
な、なるほど
「そうは言ってもそう簡単に糖質を減らすのは困難だ。糖質はコカインと同じレベルの依存度なんだ、そのためタンパク質をとることで、その摂取量が制限できるようにもなる」
せんせー!もう少し詳しくおしえてください!
「生物というのは、自分に必要なタンパク質をとるまで食欲は満たされないものなんだ。そのため効率よくタンパク質を摂るために、プロテインを飲むんだよ」
ぽんぽこぴー!
「タンパク質不足は体重増加とも繋がっている。人間のエネルギー消費には運動以上に、普段生活している中で消費される基礎代謝のが大きいんだ。タンパク質は筋肉を作る要素だからね、筋肉が落ちると基礎代謝も落ちる。肥満体になりたくなければ、タンパク質を摂るんだ」
ふぁーーーーー!
「ただ、タンパク質はあくまで土台なんだ。体調の改善には血流の改善が必要だ」
「血流を良くするには、血液の量を増やす必要がある、そのためタンパク質と一緒に鉄分を摂るんだ」
ふぇfふふん!?
「特に女性は月経があるため、鉄分が多く失われがちだ。意識して摂取する必要があるだろう」
気がつけば、じっとりと手には汗が滲んでいた
「どうだい?ここまで聞いてみて、わからないことはないかい?」
伺うように、こちらに寄り添うような笑顔を向けている。
その気遣いに、空気が弛緩していくのを感じた
「最後のレッスンだ。メガビタミンについて話そうじゃないか」
そうして、二人のディスカッションは夜に溶けていく。
やがて、窓辺に青みが掛かる光が集約されていくまで続くだろう
夏の匂いがした
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